ツシマを頭に受けておかしくなってしまった人のろくろ回し

ゴーストオブツシマがあまりにも自分の嗜好-Shikou-に合いすぎて情緒が滅茶苦茶になった。松島が良すぎて「ああ松島や」などとしか詠めなくなった人間も噂によれば居るらしいが、自分がそれに甘んじていると素晴らしいものを表現する語彙が足りなくて詰むような気配がする。

なので、この記事では寂寥感と美しさを備えたツシマのシネタバレ込みで情緒を言語化するためのものとしたい。あ、ちなみに守破離の守破まで終わったところです。そしてネタバレ部分は折りたたんでおきます。下の「ネタバレ」をクリックしてね。

 

 

 

ネタバレ

・たかはどこかで死にそうと思ってたけど、その死への道筋が「この人はこういう性質だからこうなりました」みたいな作り方だったのが凄かった。

 ゆなはたかを過剰な程に溺愛していた上に本土へ逃げるチャンスを逃せなかったから境井の頼みを断ったし、たかは助力を断られた境井の助けになりたかっただろうし、境井はゆなの気持も分かるし本人の意思を尊重したいだろうし…という物事がドミノ倒しのように連なってたかの死と境井の慟哭に繋がる構成。天才か?

 あと「最後に首を落とす」というコトゥンの行為は、一矢報いようとしたたかを武士として尊重した行為なのかはよくわからない。そうだったら面白いな。

 

 たかが最後に遺したものが「冥人の装束」で、境井が冥人となる最後のひと押しになる展開の描写が凄い。たかにとって境井はお侍を越えたもの、民を守るために身を削るもの、憧れの偉いお方なのに、境井としては友だった(装束の説明文から)

 お互いに友と言いあえれば良かったのに、そうはならなかった。それでもたかとゆなは境井に救われた部分も確実に存在して、そのお礼としての遺したものと考えるとこの装束は重い。はぁー(嘆息)

 

・「俺は冥人だ」と宣言するあのシーンでスタンディングオベーションした。

 そも境井は断片的な会話から「かなり頑固」「実利のために手段を選ばない傾向」があって、それが伯父上の教えで誉を求める方向に矯正されていただけなんだよなあ。

 伯父上に肉親としての情は確実にあっただろうし志村を継ぐことに当初は異論が無かっただろうけど、誉を重視するあまり浜の時と同様な真っ向勝負をしようとし過ぎる事が境井の志と齟齬を来したのだな。向こうが人質や脅迫、外道な手段をわんさか使ってくるなら、体裁を気にしている場合ではないのだ。そもそも武士が民の手本となる前に民が死んでしまうと意味がない。だから「誉で民は救えません」

 最後の駄目押しが「ゆなが毒を盛った事にしよう」だよ。城を落としたのは確実に境井の毒のおかげだし、それが行使されなければ大勢の民が犠牲になっていたのは確実。しかも自分が武士として生きるためにゆなをスケープゴートにしろと言ってくる。

 伯父上としては潔白な武士として自分の跡を継いでほしいという気持ちだったのだろうが、ゆなにまで誉の価値観を押し付けてくる伯父上には、境井の中で既に誉が暴落している事は分からないのである。そういうとこだぞ伯父上。

 そこで境井は武士に失望したんだろうなあ。武士として生きるためには少なくとも多数の民の犠牲を要求せざるを得ない。それは志村がゆなに協力を強要してきたのも一つ。

 境井が対馬を巡る間に、名前の無い民の死を見過ぎたのもあるだろうな。武士が誉を残せるのは覚えている人や物があるからで、村人の死体だけでは名前もわからず頭を下げる事しかできない。無常ですよ。

 だから志村仁を否定して冥人を名乗ったのだろう。武士の誉では民を守れず、むしろ犠牲をいたずらに増やしてしまう。民を守るのは冥人という名前のわからないヒーロー。

 民もそれを望んでいて、幽閉された境井を助けに来たのは仲間の中でも民代表の堅二だったんだろう。多分。

 そして伯父上に今まで敬語で崩すことが無かった上での言葉なので、つまりは肉親であるという事以上に武士としての上下関係も捨て去った≒武士ではなく冥人になるという意思表示でもあるのだろう。

 あと書状を火にくべようとして止まる伯父上の動きが「どこで間違ったのか」と思っているように見えて仕方ないのだ。というか伯父上ちゃんと火に焚べられた?未練があって燃やせてないのでは?

 

・竜三は「友達だから殺せない」し、境井は「友達だからこそ殺す」

 菅笠衆が飯不足で死にかけてる中で、未だに理想の誉イズムを出している境井はどう映ったんだろうな。

 死にかけてる仲間のほうが多いってのに脳筋な作戦しか出さないし、人助けどころか自分たちが死にそうな中「伯父上を助ければ」とかいつ叶うのかわからない報酬を差し出してくる幼馴染は相変わらずで眩しくもあったんじゃないかなあ。

 菅笠衆スカウト前、もっと冥人化が進んでいる時に出会ってたら少し違ったかもしれない。でもそうはならなかったんだよロック。

 思い出話の中で竜三は浪人から取り立てて貰おうとしていたけど、それを境井が空気読まずぶちのめしてしまったからこうなってしまったという部分に、竜三のコンプレックスと境井の育ちの良さが見え隠れして辛いのだな。そして境井は育ちが良い善人だからそういう部分に疎いところがあるのがすれ違う原因なのだなあ。

 この身分違いであるという部分が最悪の結末の引き金になっていて、竜三はコトゥンに降ってもどうにかして境井を殺す事だけは回避しようとしているように見える。コトゥンに首を持ってくるよう言われても、問答無用で襲うことはせずに境井が投降するように説得している。そして本人をだまし討ちしても殺さずに脅しだけに留めている(たかを殺したのはコトゥンだけど)そして、この一連の出来事が境井の冥人化を進める事になっている事を、恐らく竜三は理解できていない。

 友達だから出来るだけ殺したくないし、大切な人を殺されたら戦意を失うか恐怖で武器を握れなくなる。そう思うのは竜三が武士ではないからで、境井は武士だから侮られているとか仇を取らねばならないとか自分の手で始末を付けなければならないとか、そういうすれ違いが起こっているのではないかと思った。だから竜三は境井が負けた時に「お前が悪いんだ」とか自己正当化をしなければならなかったし、境井は竜三が一番の友であるままに斬る事が出来たんじゃないかな。辛いな。

 

・冥人のヤバさは見返りもなく民を救おうとする辺りにある

 境井、基本的に育ちがいいんだよね。敵や悪人ではない他人は身分関係なく尊重しようとするし、倫理観はある程度備えてるし。

 ここでコンプレックスの話に戻ると、コトゥンも竜三もある意味コンプレックス持ち仲間だったのではなかろうか。境井が捕まった時、コトゥンは「境井が志村の影にいる事にコンプレックスを持っている」前提で話しかけていて、それはコトゥン自身がそうであるからという事も読み取れる。書状を読むとコトゥンは努力家であるし野心も備えていて、自分が優れているという自負があるのに実際はこの対馬に飛ばされているのだ。フビライの影、使い走りもとい実働部隊でしかないという部分にコンプレックスを持っているのだろう。

 なので普通は影になっている奴は何かしらコンプレックスを持っているだろうという前提で話しかけているのだろうが、残念ながらそいつは境井仁である。育ちの良さと頑固さと善性と手段を選ばない性格が悪魔合体したヤバい奴だ。

 育ちが良いので民に優しく、頑固なので正しいと思ったら全てを敵に回すし、敵と見なすと絶対に降らない。善性が高すぎて見返りが無くとも困っている人を助けて、手段を選ばないから敵と見なせば屋根から三連殺だろうが五本飛ぶ超威力クナイだろうが毒だろうが平気で使う。ヤバい。お侍の戦い方じゃねえ。

 境井は育ちが良くて竜三のコンプレックスが分かってないくらいなので、当然ながらコトゥンの話も「何言ってるんだコイツ」くらいのものであろう。だからコトゥンは冥人の予測が出来ないのだろう。

 普通なら勝ち目のない戦いに挑まないし、ただプライドが高いだけなら戦法が予測しやすい。見返りのない戦は損だし、お互い損失少なく戦いを終わらせるやり方があればそちらを取る。普通なら。だがそいつは境井仁だ(二回目)

 コトゥンが志村を幽閉していた理由は、お互いに取引が成立すれば最高だがそこまでは狙っていなくて、まず自分の知識と実際の武将の行動や考えのすり合わせをするのが目的だったのではないか。だから、志村城ではコトゥンは志村の戦い方を予測して橋を破壊出来た。分かりやすいから。

 だが、冥人は武将の誉だのプライドだのお構いなしなので、残念なことに対武将の手立てが通用しない。それでいて神出鬼没のゲリラ戦なので広い範囲を警戒させないとならない。あと崖もよくわからないフックショットとパルクールで登ってくるのでたちが悪い。なんなんだコイツ。

 

・空(馬)で泣いた

 馬ですよ。ゆなに貰って名前を付けて大事にしていたあの子が、口笛を吹けばいつでも来てくれたあの子が、弓で怪我をしても走り続けて上県の真ん中まで走り続けて倒れたことに泣きましたよ。凄く頑張った…。

 いつか穏やかな旅に出ようとか、名馬だとか言って、一緒に寝たり、ぼんやりしてるとつついて来たあの子が居ないんだな…と思うと凄く寂しいものがある。