俺たちのGhostwire Tokyo(9/11追記)

Ghostwire Tokyoをクリアしました(報告)

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 「手フェチにおすすめのゲーム」「動物がかわいい」などという宣伝文句が飛び交うこのゲーム。

 ざっとあらすじを話すと、渋谷中が謎の霧に覆われて、その霧に触れた生者は肉体を消失して魂だけにされてしまう。そしてたまたま同時刻に事故ってほぼ死んでた青年の体にオッサンの魂が乗り移ったら青年が生き返って、生者のくくりから外れたので霧から逃げ延びるという話です。肉体を消失して魂だけにするって、服だけ溶かすスライムの亜種みたいですね。

 

 例によってクリア後の感想を書きなぐったやつなので、「ネタバレ」をクリックして読んでください。やってない人はやろう(PS5 or ゲーミングPCなのがかなり辛いけど)

 9/11にトロコンのため再度メインクエストをクリアしたので、その辺で思ったことを追記しました。

 

ネタバレ
始まった時には殆どが終わっていた

 基本的にメインクエスト・サブクエストのキャラともにほぼ幽霊なので、「これからの事」を言う人間がほぼ居ない。結局はほぼ未練を解消したり、目をそらしていた部分に向き合うという方向に徹底していたのが個人的には好きでしたね。ほぼ全部後日談っぽいから自分はTLで「かなりネクロニカでは?」とか言ってましたけど。実際に魂のない肉体を操ったりしてたし…。

 ほぼずっとメインクエスト目標だった麻里さえ開始時に半死半生だったのだから、維持装置を外された時点で死が確定だったんですね。KKも肉体を破壊した時点どころか肉体に札を埋め込まれた時点で多分アウトだったのでしょう。生者は暁人ただ一人だけで、二人の死者が背中を強く押して、ようやく一人だけ終わった物語を抜け出させる事に成功したという事なのでしょう。

(9/11追記)

 ED中、「葬式は生者のために存在する」という感覚がありました。わだかまりを抱えず死んだ凛子と絵梨佳の葬式であり、兄への未練を残した麻里の葬式で、志半ばで(肉体的に)死んだKKの葬式なのだと思っています。段階を経てあらゆる死を皆が受け入れていく物語。

 

信頼できない語り手の暁人

 真っ先に麻里を心配する割にKKとの会話で思い出話が出てこず、それどころか一人の時でもモノローグがほぼ無いので「何かあるな」とは思っていました。麻里を助け出したいとは言ってるけど、麻里が目を覚ましたら何かしたいみたいなのが無いのが…。

 しばしば公衆電話で出てくる声も、エーテル関連の幻聴の可能性が高いですね。

 暁人は麻里どころか家族の思い出と向き合う事を避けていたので、彼の中で罪悪感と共にどんどん「思い込みの麻里」が膨らんで、それがあの6章あたりの記憶に繋がったのではないでしょうか。よくあるよねそういうの(タスクと向き合うのが怖くて関係ない作業をするけど、期限は着々と迫ってくるストレスはあるので余計にしんどくなるやつ~~~~!)

 でも暁人くん、君は分かってないかもしれないが、女子高生になってもまだ「お兄ちゃん」呼びしてくれる妹は貴重だぞ…?

 

 でもって、通常の一人称が「ぼく」で、麻里の前でだけ「オレ」なんですよね。一人称が場面で変わるやつ、自分はとても好きです。妹(幻覚)だと「僕」で妹(本物)だと「オレ」なので、両方妹とは言ってるけど彼の中では無意識に区別つけてる気がする。

 住居が変わる事に不満を持っていたのが果たして麻里なのか、それとも麻里がそう思っていると感じた暁人なのかは分からないところです。

 (9/11 追記)

 6章で声が低くなった時に複数名の声が混じってるような時があるけど、もしかして暁人くんの声(自分の思い込み)がノイズとして混じってたりする?

 あと暁人くんの感情があまりはっきりと語られてないので多分に推測を含みますが、思春期を迎えて妹との距離を測りかねてて、それだけならまだしも両親の死があったせいで本来頼るべき人間が居なくなって、でも親代わりの理想の兄にはなれなくて、余計に麻理に直接聞くのが怖くて、そこにあの火事だったんじゃないかなと思っています。麻理はずっと小学生の頃から変わらずお兄ちゃん大好きだったのに、暁人がそれを受け止める状態に無かったという悲しみ。とにかく両親の死が早過ぎた…。

 

現実と向き合わない先輩ことKK

 暁人くんよりもっと目を背け続けて色々失ったオッサンとはこの男~~~~!!

 家族から目を逸し続けて家族を失った男が、肉体の喪失を認めず他者から奪おうとするところから始まるって、今考えるとかなりパンチが効いてますね。

 KKを失った暁人くんにどうしてもフォーカスが当たりやすいですが、KKも暁人くんに憑依していないとかなり無力なので、そういう過程を何度か繰り返して自分の状況を受け入れさせるという事が必要だったのかもしれません。それにしても誘拐されすぎとは思うけども。

 最終的には「俺のようになるな」と示して穏やかに消えていったのが悲しくもあり、上質なロスタイムを過ごせたとも取れるのが良かったと思います。

 ただ人生の先輩的な立ち位置なのに、暁人くんからはどちらかというとガキっぽい扱いをされてた事に笑いました。地下鉄の幼児料金とか。

 

更に更に現実と向き合わない男 般若

 家族の死に向き合わない、指を見る限り肉体が死んでる可能性が高いので自分の死にも向き合わない、要素だけで考えるとKKの強化版みたいな男ですねこいつ。自分の親父が渋谷ジャックしてなんか自己陶酔したコメントを流し続けてたら、絵梨花じゃなくても反抗期になると思います。

 自分に向き合わないまま目的と手段がひっくり返っちゃった印象があるので、自分の中にあった死への恐怖すら分からず、倒される直前で漸く理解したのかなと思いました。あの場合だと死というより融合による「個」の消失かもしれません。なんにせよ無様~。

 

 (以降は9/11 追記)

人間は頭の中で作った他者をそのものだと思いこんでしまう

 Ghostwire Tokyoの人間関係の崩壊って、引き金が大体他者への「良かれ」が実際には良くなかったという話なんですよ。凛子が絵梨佳の意思を酌めなかった事しかり、般若の目的しかり、KKの家庭の話しかり。極端な例が般若ですが、結局人間は勝手に頭の中で他人像を作り上げてしまうし、本人の意思を確認してアップデートしないとどんどん行動がそちらに引きずられてしまうんですね。

 暁人も大体それで、麻里の意思を確かめないといけない事は分かってるけど現実を見るのが恐ろしい。だからどんどん自分の中の麻里が自分を苛むものになるという悪循環が発生している。

 

人間の定義とは?

 般若の頭のネジが外れているのは承知の上で、なんだかな~感が強かった原因がこの辺かなと思いました。まかりなりにも元科学者なら定義をしっかりしてほしい。

 この辺は自分の思想の話にもなりますが、人間が魂と肉体から出来ていると仮定して、魂だけの存在がその"人"と呼べるか?という問題になります。多分Ghostwireも似たような解釈になってると思うんですが、「短期的には連続性があっても、長期的には無理」という感じだと思います。何故かというと、人間の思考は外界からの刺激(感覚器官からの情報)に左右されるものだからです。そして魂だけの状態で強固なアイデンティティを保ち続けられるほど人間は強く無いだろうという感覚があります。般若、魂の不変性信じ過ぎでは?

 強い未練があって、かつ魂だけになってそんなに経過していない凛子やKKは肉体がある頃と同じようなはっきりした輪郭がありますが、大体の幽霊はぼんやりした影しか無いですし、恐らくは「大きくてもっと複雑な人間の中の、未練と思考の一部だけがこの世にこびりついて残っている」のではないでしょうか。

 

般若の欺瞞

 妻と娘が輝ける楽園作って、この娘(麻里)にも楽園作ってやろうって事は、渋谷の大部分の魂の面倒を見る気がないんじゃないか!!!!!!拾ってきたんだから最後までちゃんと面倒見なさい!!!!!

 妻の魂を取り返すエゴを大衆の救済にすり替えて、その自己矛盾をゴリ押し踏み倒してるあたり完全に狂ってるな~って気持ちで見てました。だから妻と娘のようなものと融合しちゃうんだよ(般若のイカれた定義内ではあれは妻&娘なので)

 

 

 

二周目したいけどPS5かSteam deckでやりたい。